【病院薬剤師】調剤薬局との違い
薬剤師さん向けのお話。知りたくても調べようがない、実際の病院薬剤師の働きかた。薬剤師さんも、これから薬剤師を目指す人にも、参考になればと思う。
【1:情報源の多さ】
調剤薬局では患者様の事、知りようがない。情報源は処方箋と、(きっちりした人は)お薬手帳と、たまに見せてくれる検査数値のみ。そもそもこの薬、どういう病名で使っているの?って。主治医の処方意図だってわからない。最近患者さんの××さん、麻薬が増量したけどどれだけストックしておけばいいの?とか。
病院内薬局だと、情報源は多い。病院の多職種スタッフ100人くらいの情報がわっと手に入る。患者様の病態はもちろん、Drの処方意図も明確にわかる。
たとえば処方箋に「アザルフィジンEN錠500㎎ 1錠 分1朝食後5日分」ってあるとする。
調剤薬局では「これって以前も別薬局でもらっていたのか?継続なのか新規なのか?そもそも病名は何?」ってなる。
病院内薬局だと、処方医の記事がみられる。「検査数値より免疫力回復傾向 関節リウマチの炎症継続 6月13日よりSASP(アザルフィジンのこと)開始」などと書いてあるものがフリーアクセス。なんで出ているのか、どうして今日開始するのかなど、主治医の処方意図を汲んで指導できる。それだけではなく、別の看護師記事に「この人はごはんの嚥下おぼつかない 大きい粒のものは吐き出す」などとあったら、粒の大きいアザルフィジンEN500㎎錠は、のみにくい薬に変えてもらおうか、などと主治医提案もできる。これは病院内薬局にこないと、決して知りえない内容だ。
このわかりきった状態で、患者さんに話ができる。しかも調剤薬局の3分指導(その記録は10分くらいかな)とは違って、もっとじっくり時間がかけられる。病院の中と外で、薬剤師のできる事はこんなに変わる。
【2:扱う剤型の多さ】
調剤薬局 | 院内薬局 | |
錠剤 | 〇 | 〇 |
粉薬 | 〇 | 〇 |
水剤 | 〇 | 〇 |
外用薬 | 〇 | 〇 |
注射薬 | × | 〇 |
点滴薬 | × | 〇 |
おおまかに、取り扱い剤型はこんな感じ。注射薬は緊急で効かせたい薬なども扱う。(ショックの人へ昇圧目的でアドレナリンシリンジ注とか)
【3:接する病態の多さ】
「熱中症で搬送」「ツツガムシ病の疑い」「脳梗塞の急性期」などは、病院ならではで調剤薬局では見かけない。
熱中症の人はまず、ソリター3A 500mL入り6時間投与 1日4本 なんて出方する。要はひたすら水分とミネラル入れられる。顔も手足も水でむくんでパンパンになったりする。薬としてはあまり出ない。検査数値もフリーアクセスだけど、脱水してRBCもWBCもBUN(とくに上昇する)も上昇していたり。ASTも細胞破壊のため上昇する。
ひどい熱中症だと、AST・ALT・LDHが20000以上とかもある。熱中症で急速に筋肉破壊がおきているわけだけど、壊れた組織が目詰まりして急性腎不全にもなりうる。
【4:自分のアクションが処方を変える】
病院内だと、検査数値や患者さんの訴え記事はフリーアクセス。
検査数値が解るから、処方を変えれる事例。
メトグルコ錠250㎎ 6錠分3 なんてのをのんでいる人。急に腎機能がさがったとかも、検査数値で解る。このひとはeGFRが29に下がってしまっている。メトグルコは30未満は禁忌だから、Drに中止を提案しよう、とアクションを起こせる。
患者さんの訴え解るから、処方を変えられる事例。
朝昼夕食の摂取量が3割に低下している、という記事をみつけるとする。「食欲増進剤のご処方検討お願いします。」って提案もできる。
嚥下力が低下したという記事を見つけたとする。その人が
デパケンR200㎎錠 4錠 を服薬中だった場合。嚥下しやすいよう、セレニカR顆粒40% 2gに変更お願いできませんか?とアクションを起こせる。
【5:悲しい出会い・別れもある】
内科や外科を担当する場合、どうしても看取りに遭遇する。(整形外科・眼科・産婦人科だとまず遭遇しない)「尊敬できるいいひと(患者さん)」が、数日前まで元気だったのに急変することもある。知りたくなくても、知らないといけない事だってある。
【6:まとめ】
僕は調剤薬局を中心に10年以上やってきて、「なんでもっと早く病院行かなかったのか?」って思っている。理由は【1】~【4】の中身がかけがえないから。ただ新卒の給与待遇をみると、病院薬剤師をしり込みする気持ちもわかる。だから言いたい。最初は病院以外へ行って(とくに地方手当の付く田舎、患者さんも優しいし貯金もできるよ)、それでもどかしくなったら病院行くのがいいよって。東日本大震災のさい、フリーターだった僕は薬剤師ボランティアに応募したけど、「病院経験ないから、こういういざって時には役に立たないよ」って先輩にいわれてショックだった。世間的には、やっぱり病院薬剤師が頼りにされるんだなって思った。